【3316】 ○ 馬場 久美子 『グローバルリーダーのための「トランジション・マネジメント」―海外駐在で成功するための条件』 (2019/04 ダイヤモンド社) ★★★★

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海外赴任者に対するコーチング的な指南書だが、一般のリーダーにとっても示唆的?

「トランジション・マネジメント」1.jpg「トランジション・マネジメント」2.jpg 『グローバルリーダーのための「トランジション・マネジメント」 海外駐在で成功するための条件』['19年]

 本書は、プロフェッショナル・コーチとして、数多くの海外赴任者の赴任前・赴任中・帰任後のサポートをしてきたという著者が、その経験を踏まえ、海外赴任者が異文化環境に適応していく過程であるトランジション(移行)をうまく進め、グローバルリーダーとしてのパフォーマンスを十分に発揮するにはどうすればよいかを解説したものです。

 第1章では、海外に赴任して異文化環境に適応し、パフォーマンスを十分に発揮できる状態になるまでのプロセス(=トランジッション)には、赴任したての「ユーフォリア期」、異文化に溶け込めずに苦しむ「カルチャーショック期/回復期」、環境に合った新しいスタイルを身に着けて自信がつく「適応期」、帰任後の元の文化に戻る際の「逆カルチャーショック期」の4つのフェーズがあり、グローバルリーダーは必ずこのトランジションの旅路を歩み、また、トランジションは成長のチャンスでもあるとしています。

 第2章では、トランジションを成長につなげるカギは「自分との対話」と「他者との対話」であり、「自分との対話」は、不安定なトランジション・プロセスを違う視点から見つめ直すことを助けてくれ、「他者との対話」は、「リスクの回避」だけでなく、「可能性性の追求」も可能にするとしています。

 第3章では、そうした「対話」を効果的にするために赴任前に取り組むべきこととして「自己認識」を挙げ、なぜ「自己認識」がグローバルリーダーにとって重要なのか、「自己認識」を高めるにはどうすればよいのかを説いています。

 第4章では、赴任後に待ち受ける4つのトランジションの、それぞれのフェーズでどのような「対話」が求められるかを解説しています。まず、「ユーフォリア期」には、「ミッション・ビジョン」を明確にすることが、「カルチャーショック期/回復期」には、サポート環境を築くことが求められるとしています。また「適応期」には、現地スタッフとの「共生関係」を築くことが、「逆カルチャーショック期」には、「対話」によって葛藤を乗り越え、新たな「物語」を描き直すことが必要になってくるとしています。

 最後の第5章では、トランジション期の葛藤や混乱こそが成功のサインでもあり、トランジション期における自分自身や他者との繰り返しの「対話」は、関係性のつながり直しのプロセスとも言えるとしています。

 著者は、すべてのグローバルリーダーがコーチをつけることによって、成功確率が大きく変わると確信しているとのことです(確かにそうかもしれない)。しかしながら、現実には、コーチングという1対1の対話によるアプローチという特性上、コーチを受ける人は限られてくるため、本書が読者にとって「コーチ」の役割を担ってくれればうれしいとことですが、そうした思いは伝わってくる内容だったと思います。

 本来は1対1でコーチを受けるべきところを文章化しているため、何度か読まないと実感が湧きにくい面もありましたが(コーチングの本全般に言えることだが、読み手によって相性の良し悪しがあるかもしれない)、著者の実体験を含めた具体的なエピソードなどを通して語ることで、その点はかなりカバーできているように感じました。見方によっては、グローバルリーダーに限らず、リーダー全般にとって、自己認識や部下コミュニケーション等について考えるうえでの示唆を与えてくれる本であったと思います。

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